Keishi Tanaka

一番古い記憶 -

 先日、北海道に向かう飛行機の中で、ふと記憶について考えていた。忘れていくことと、そうではないこと。出会った人の名前を思い出せなかたり、好きな曲を歌ってるアーティスト名が出てこなかったりして、自分に対して残念な気持ちになることが増えた。これからもっと増えると思うとゾッとする。忘れやすくなった理由を考えたら、いくつか思い当たることがあったが、その理由を語るより、別なことを書きたい衝動に駆られてこの文章を書いている。
 ちなみに、こうした何かのきっかけを、北海道でもらうことが多いのも偶然ではないと思う。僕は生まれ育った北海道が今でも大好きだ。

 飛行機の中で、僕の一番古い記憶はなんだろうと考えてみた。写真や映像で復習しているものではなく、純粋な記憶の中での話。
 頭に浮かんだ場所は、通っていた保育園。親の迎えを待っているときのものだった。共働きだった僕の親が迎えにくるのは午後5時頃で、順に友達が帰っていくなか、いつも最後の方まで残っていた。でも、その時間を僕は嫌いではなかった。特に好んだのは、贅沢に使える大きな積み木や、もともと置いてある遊具を使って、体育館にオリジナルのアスレチックを作り、それをクリアするという遊びだ。僕はそれを特訓と呼んでいた。
 その特訓の時だけ仲良く遊ぶ女の子がいた。僕が隊長で、隊員であるその子に指示を出しながらゴールを目指す。「ここで鉄棒に5秒ぶら下がってから、あっちの赤い積み木に渡って、旗の周りを3周してからあそこにジャンプ。そこで次の指令をだすよ」みたいな感じだった。隊長は少し上から目線。というか、「これできる?僕はできるよ」とアピールをする時間だったんじゃないかと、今になって初めて気がついた。初恋ともまた違う、謎のアピール。

 その女の子とは、同じ小学校に行ってない。実は恥ずかしい話、その子との最後の瞬間を覚えていない。先日の飛行機の中でこの話を思い出すまでの約30年間、一度も思い出すことはなかったその子のことが急に気になった。今でもしっかりと顔を思い出せる。4歳くらいの少女の顔。
 僕の一番古い記憶に出てきてくれた彼女が、元気で幸せにやっていることを願う。